東京地方裁判所 平成9年(ワ)27096号 判決 1999年6月29日
主文
一 被告は、別紙一「被告商品目録」(三)ないし(九)記載の腕時計を輸入し、販売等譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
二 被告は、前項の腕時計を廃棄せよ。
三 被告は、原告シチズン時計株式会社に対し、金六三万九二〇〇円及び内金五六万三二〇〇円に対する平成一〇年一月一三日から、内金七万六〇〇〇円に対する同年一〇月一〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告シチズン商事株式会社に対し、金一四三万〇四〇〇円及び内金一一二万六四〇〇円に対する平成一〇年一月一三日から、内金三〇万四〇〇〇円に対する同年一〇月一〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この判決のうち、第一項、第三項及び第四項は、仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 原告らの請求
一 主文第一項及び第二項同旨
二 被告は、原告シチズン時計株式会社(以下「原告シチズン時計」という。)に対し、一六六〇万円及び内金一六〇〇万円に対する平成一〇年一月一三日から、内金六〇万円に対する同年一〇月一〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告シチズン商事株式会社(以下「原告シチズン商事」という。)に対し、金三四四〇万円及び内金三二〇〇万円に対する平成一〇年一月一三日から、内金二四〇万円に対する同年一〇月一〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、株式会社朝日新聞社発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社発行の毎日新聞、株式会社讀賣新聞社発行の讀賣新聞、株式会社日本経済新聞社発行の日本経済新聞の各全国版社会面に、別紙二「謝罪広告目録」記載の広告を、同目録記載の条件で一回掲載せよ。
第二 事案の概要
本件は、原告らが被告に対し、被告が輸入販売した腕時計の形態が原告らの腕時計の形態を模倣したものであり、被告の行為は不正競争防止法二条一項三号の不正競争に該当すると主張して、被告の行為の差止め、損害賠償等を求めるとともに、原告シチズン時計が被告に対し、意匠権侵害を理由とする差止め及び損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実並びに《証拠略》により容易に認められる事実
1 原告シチズン時計は、別紙三「原告ら商品目録」(一)ないし(七)記載の腕時計(以下、それぞれを「原告ら商品(一)」などといい、これらを「原告ら商品」と総称する。)を製造し、これらを専ら原告シチズン商事へ販売している。原告シチズン商事は、原告シチズン時計から原告ら商品の納入を受けて、これを販売している。
原告ら商品(一)ないし(七)の形態は、それぞれ、別紙三「原告ら商品目録」(一)ないし(七)記載のとおりである。
2 被告は、別紙一「被告商品目録」(一)ないし(九)記載の腕時計(以下、それぞれを「イ号商品」ないし「リ号商品」といい、これらを「被告商品」と総称する。)を輸入し、販売している。
イ号ないしリ号商品の形態は、それぞれ、別紙一「被告商品目録」(一)ないし(九)記載のとおりである。
3 原告シチズン時計は、次の意匠権(以下、「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)の意匠権者である。
(一) 登録意匠番号 第一〇〇八〇〇三号
(二) 出願年月日 平成九年一月三〇日
(三) 登録年月日 平成一〇年一月三〇日
(四) 意匠に係る物品 腕時計用側
(五) 登録意匠の構成 別紙四「意匠公報」記載のとおり
4 リ号商品の腕時計用側の意匠は、別紙一「被告商品目録」(九の二)記載のとおりである。
5 原告らが不正競争防止法二条一項三号の不正競争に該当すると主張する被告商品と原告ら商品との対応関係は、次のとおりである。
被告商品、対応する原告ら商品
イ号商品、原告ら商品(一)
ロ号商品、原告ら商品(二)
ハ号商品及びニ号商品、原告ら商品(三)
ホ号商品、原告ら商品(四)
ヘ号商品、原告ら商品(五)
ト号商品及びチ号商品、原告ら商品(六)
リ号商品、原告ら商品(七)
二 争点及びこれに関する当事者の主張
1 被告商品の形態が原告ら商品の形態を模倣したものであり、その輸入販売行為が不正競争防止法二条一項三号の不正競争に該当するか。
(一) 原告らの主張
(1) 原告らは、平成六年一〇月から原告ら商品(一)を、同五年六月から同(二)を、同八年一〇月から同(三)ないし同(六)を、同九年三月から同(七)を、それぞれ製造販売している。
(2) 被告は、平成七年九月ころからイ号商品を、同年一〇月ころからロ号商品を、同九年三月ころからハ号商品を、同年七月ころからニ号商品を、同年五月ころからホ号商品を、同年七月ころからヘ号商品を、同年八月ころからト号商品を、同年一一月ころからチ号商品を、同一〇年四月ころからリ号商品を、それぞれ輸入し、販売している。被告によるイ号商品ないしリ号商品の輸入及び販売は、いずれも対応する原告ら商品が最初に販売された日から起算して三年以内にされたものである。
(3) 被告商品の形態は、いずれも対応する原告ら商品の形態を模倣したものである。
(4) 被告は、後記のとおり被告の行為が不正競争に該当しない旨を主張するが、被告が指摘する原告ら商品と被告商品の相違点は、原告ら商品の形態を改変するに際して着想の困難性がある部分ではなく、改変による形態的効果が乏しいものであって、被告商品が文字盤、時計側、バンド等の形態において原告ら商品と酷似し、その形態が実質的に同一であることを打ち消すほどのものと評価することはできない。また、被告は時計の輸入販売を業として行う者であることに照らせば、被告商品が香港の業者のオリジナルデザインと思っていたとの被告の主張を真実と認めることはできない。価格や販売店舗、需要者が相違するとしても、模倣を否定する要因とはなり得ない。被告商品は原告ら商品に酷似しており、これを偶然の一致ということはできず、原告商品に酷似する商品を作る意思に基づいて作られたというべきである。
(5) したがって、被告が被告商品を輸入販売した行為は、不正競争防止法二条一項三号の不正競争に該当する。
よって、原告らは被告に対し、同法三条一項によりその差止めを、同条二項によりその廃棄を、同法四条により後記3(一)の損害賠償を、同法七条による信用回復措置として謝罪広告の掲載を求める。
(二) 被告の主張
(1) 原告ら商品と被告商品とは、次のとおり形態が異なっており、被告商品は原告ら商品の形態を模倣したものでない。
ア 原告ら商品(一)とイ号商品とは、針の数及び形状、文字盤の星形模様の大きさ及び位置、ケース及びバンドの材質、竜頭の形状、ケースの厚さが相違している。
イ 原告ら商品(二)とロ号商品とは、ベルト及び竜頭の形状、ケースの幅及び厚さが相違している。
ウ 原告ら商品(三)とハ号商品とは、ベセルの有無、窓の中の時針及び分針の仕様、ヘアラインのメッキ、窓枠の形状、ベルトの仕様、ガラスの形状、ガラスの内側のプリントの有無、秒針のペイントの有無、本体の大きさが相違している。
エ 原告ら商品(三)とニ号商品とは、本体の大きさ、ベルトの形状、時間表示の窓枠、ガラスの内側にプリントされた秒針の上の円形の色、時間表示のラインの色、時刻を表す数字の形状、ガラスにプリントされた色が相違している。
オ 原告ら商品(四)とホ号商品とは、日付表示の有無、針の形状、ケース本体の縦横の比率が相違している。
カ 原告ら商品(五)とヘ号商品とは、窓の形状が相違している。
キ 原告ら商品(六)とト号商品とは、大きさ、竜頭の位置、ドームガラスの形状及び場所、文字盤の仕様、秒針の色が相違している。
ク 原告ら商品(六)とチ号商品とは、竜頭の位置のみ同じで、他は全く異なっている。
(なお、リ号商品については、被告は、原告ら商品(七)との相違を主張していない。)
(2) 原告ら商品と被告商品とで、バンド、時計側、文字盤等の形態において同一又は類似するものもあるが、他社の商品にも同様のものがあり、原告ら商品の形態は格別目新しいものではないから、原告ら商品と被告商品の形態が同一又は類似であるからといって、被告商品が原告ら商品の形態を模倣したことにはならない。
(3) 被告は、被告商品の輸入に当たり、香港の業者のオリジナルデザインだと思っていたものであり、不正に輸入したという認識はなかった。原告ら商品と被告商品とは、価格、販売店舗、購入者層が全く異なっており、需要者において両者を見間違えることはないから、被告商品の輸入販売は不正競争に該当しない。
2 リ号商品の輸入販売が本件意匠権の侵害となるか。
(原告シチズン時計の主張)
本件意匠の構成は別紙四「意匠公報」記載のとおり、リ号商品の腕時計用側の意匠は別紙一「被告商品目録」(九の二)記載のとおりであって、両者は類似している。
リ号商品に組み込まれた腕時計用側はそれ自体独立して観察されるものであるから、被告がリ号商品を輸入し販売した行為は、本件意匠権を侵害するものである。
よって、原告シチズン時計は被告に対し、その差止め、廃棄及び後記3(二)の損害賠償を求める。
3 原告らの損害の額
(一) 原告らの主張(不正競争防止法違反による損害)
(1) ア 被告は、それぞれの被告商品を少なくとも一〇〇〇本ずつ輸入し販売した。被告商品は原告ら商品の形態を模倣したものであり、原告ら商品の代替物として販売されているものであるから、原告ら商品の売上数量は、被告商品が販売された数量分減少した。
この点につき、被告は被告商品の販売と原告ら商品の売上減との相当因果関係を否定している。しかし、原告ら商品は、流行性を強く打ち出したいわゆるファッション時計であり、商品価値の中心をデザインに置くものであるし、対象は一〇代から二〇代の若者であって被告商品と需要者層が重なっており、原告ら商品と被告商品の双方を取り扱っている小売店も存在するから、原告ら商品と被告商品とは市場において競合するものであり、被告商品の販売数量が原告ら商品の売上減少数量に一致するというべきである。また、特許権等の工業所有権の侵害による損害額について定めた特許法一〇二条一項等の規定の趣旨に照らしても、原告らの損害については、右のように解すべきものである。
イ 原告ら商品(一)ないし同(六)一本当たりの販売により、原告シチズン時計は少なくとも二〇〇〇円の、原告シチズン商事は少なくとも四〇〇〇円の利益を得ている。また、原告ら商品(七)一本当たりの販売により、原告シチズン時計は少なくとも六〇〇円の、原告シチズン商事は少なくとも二四〇〇円の利益を得ている。
ウ したがって、被告の不正競争行為により原告らが失った得べかりし利益は、原告シチズン時計が一六六〇万円、原告シチズン商事が三四四〇万円である。
エ よって、原告らは被告に対し、それぞれ右金額及びこれに対するイ号商品ないしチ号商品に係る分(原告シチズン時計につき一六〇〇万円、原告シチズン商事につき三二〇〇万円)については訴状送達の日の翌日である平成一〇年一月一三日から、リ号商品に係る分(原告シチズン時計につき六〇万円、原告シチズン商事につき二四〇万円)については請求を拡張した同年一〇月九日付け原告ら準備書面(三)の送達の日の翌日である同月一〇日から、各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 不正競争防止法二条一項三号は、新しい形態の商品の開発費用の回収の機会を保障するものであるから、同号の不正競争による損害の算定に当たっては、宣伝広告費を含めた開発投資の額が反映されるべきである。原告らにおいては、原告シチズン商事による新規商品の規格の提案に基づいて原告シチズン時計が時計の具体的な形態をデザインしてこれを製造し、原告シチズン商事が多額の宣伝広告費を投入してこれを販売している。しかも、原告ら商品はファッション性、流行性を追求した斬新なデザインの商品なので、その形態の開発のためには通常の腕時計に比し多額の投資が必要である。ところが、模倣品の流通によって原告ら商品の陳腐化が促進して商品の需要が低下し、販売数量が激減して右投資を回収する機会が失われた。したがって、原告らは、被告商品の販売により本件の請求金額を下らない損害を被った。
そこで、原告らは、右(1)の原告ら主張に対する裁判所の認定額が原告らの請求金額を下回る場合にはその差額を上限として、被告に対し、未回収の開発投資額の賠償を求める。
(3) 被告は被告商品の輸入販売により二〇六万九六〇〇円の利益を得たことを自認しているので、原告らは、予備的に、不正競争防止法五条一項に基づき、右金額を原告らの損害の額として、その賠償を求める。
(二) 原告シチズン時計の主張(意匠権侵害による損害)
被告は、リ号商品を少なくとも一〇〇〇本輸入販売した。リ号商品の輸入販売行為は本件意匠権の侵害に該当するところ、リ号商品は本件意匠権の実施品である原告ら商品(七)の代替物として販売されているものである。原告ら商品(七)一本当たりの販売により、原告シチズン時計は少なくとも六〇〇円の利益を得ているので、意匠法三九条一項により、右金額(六〇〇円)に前記数量(一〇〇〇本)を乗じた金額(六〇万円)が、原告シチズン時計の損害となる。
よって、原告シチズン時計は被告に対し、リ号商品の販売につき、右(一)の不正競争防止法違反による損害賠償請求と選択的に、六〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(三) 被告の主張
(1) 原告ら商品と被告商品とは、価格、販売店舗、購入者層が全く異なっている。被告商品はファンシー雑貨であって、原告ら商品に酷似させて需要者においてこれと間違うように作られたものではない。したがって、被告商品が販売されたから原告ら商品が売れなくなったという相当因果関係はなく、ましてや得べかりし利益を喪失したとの主張は、それ自体失当である。
(2) 原告は未回収に終わった開発投資額が被告の行為と相当因果関係があると主張するが、事実に関する資料に基づいた主張ということができず、失当である。
(3) 被告が被告商品を輸入販売した数量は、イ号商品及びロ号商品が各二〇〇本、ハ号商品ないしリ号商品が各一〇〇〇本である。
イ号商品ないしチ号商品は、一本当たりの輸入原価(輸入に要する経費を含む。)が一〇〇〇円、卸売価格が一三三〇円であり、販売経費(運送費、ビニール袋、値札代等)が右差額(荒利)の二〇パーセントであるから、被告がその輸入販売によって得た利益は、一六八万九六〇〇円である。
また、リ号商品は、一本当たりの輸入原価が八五五円、卸売価格が一三三〇円であり、販売経費が右差額(荒利)二〇パーセントであるから、被告がその輸入販売によって得た利益は、三八万円である。
したがって、被告商品の輸入販売による被告の利益は、合計二〇六万九六〇〇円である。
第三 争点に対する判断
一 争点1(不正競争防止法二条一項三号の該当性)について
1 不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に類似していることを要するものである。そして、問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。これに対して、当該相違部分についての改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに、当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて、当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には、両者を実質的に同一の形態ということはできない。
これを本件についてみると、被告商品の形態と、それぞれの被告商品に対応する原告ら商品の形態とは、別紙一「被告商品目録」(一)ないし(九)及び別紙三「原告ら商品目録」(一)ないし(七)の記載から明らかなとおり、時計側、文字盤、バンドの形状等の腕時計としての基本的な形態が、いずれも同一であるか又は極めて類似していると認められる。殊に、原告ら商品は、四枚の板状体を連結してバンドを構成し、文字盤の時刻目盛に星形図形を用いた点(原告ら商品(一))、環状不完結のリング状体を複数連結してバンドを構成し、文字盤の時刻目盛に塔を想起させるA字型図形を用いた点(同(二))、文字盤部分の左側に表示窓を設け、この窓から回転する文字盤が現れるようにした点(同(三)及び同(五))、細棒状の金属片を多数連結してバンドを構成し、変形八角形の時計側に横長長方形状の文字盤を設け、その中央部に横長楕円模様を配置した点(同(四))、縦長長方形の金属片を三列に配してバンドを構成し、時計側の文字盤の周囲に環状壁を設け、その上部にドーム状のガラスを取り付けた点(同(六))、文字盤部分の右側に表示窓を設け、この窓からアナログ時計表示部が現れるようにした点(同(七))等において形態上の特徴を有していると認められるところ、被告商品がこれら特徴的な形態をすべて備えていることを考慮すると、被告商品の形態は、対応する原告ら商品の形態と実質的に同一であり、これを模倣したものと認めるのが相当である。
この点につき、被告は前記第二、二1(二)のとおり両者の形態には相違点があるなどと主張するが、原告ら商品が販売される前にこれと同様の形態的特徴を有する腕時計が存在していたことをうかがわせる証拠はなく、しかも、被告商品及び原告ら商品の基本的な形態が同一又は極めて類似していることからみて、被告商品は対応する原告ら商品を基にしてその形態に若干の改変を加えて作り出されたと認められるところ、被告が相違点として主張する点は、針や竜頭の形状、文字盤の色、数字の字体、日付表示の有無等、いずれも改変の内容及び程度がわずかなものであって、当該改変を加えるにつき着想が困難であるとはいえないし、これらの改変によって相応の形態的特徴がもたらされていると認めることはできず、結局のところ、被告の指摘する相違点はいずれも商品全体から見て些細なものにすぎない。
2 《証拠略》によれば、原告らは、原告ら商品(一)を平成六年一〇月から、同(二)を同七年六月から、同(三)ないし同(六)を同八年一〇月から、同(七)を同九年一月から、それぞれ製造販売していること、被告は、イ号商品及びロ号商品を平成七年八月ころに、ハ号商品ないしリ号商品を同九年一月ないし八月ころに、それぞれ輸入し、そのころ販売したことが認められる。
したがって、被告商品は、いずれも対応する原告ら商品が最初に販売されてから起算して三年を経過する前に、その輸入販売がされたものである。
3 被告が時計の輸入販売を業とする有限会社であること、原告らが時計の分野において我が国の代表的な製造販売会社であり、原告ら商品については、原告らが配布する商品カタログに掲載されていたほか、広く宣伝広告活動がされ、少なからぬ数量の商品が販売されたこと、前記1のとおり、原告ら商品が従来の商品に見られない形態上の特徴を有するところ、被告商品がいずれも対応する原告ら商品の特徴を有し、その形態が極めて類似していること、被告商品については、その輸入に関する送り状は提出されているものの、輸入取引の際の状況を具体的に明らかにする証拠が何ら提出されていないこと、などの事情に照らすと、被告において、被告商品を輸入した時に被告商品が原告ら商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がなかったということは、到底できない。
4 本件においては、原告ら商品を製造しているのは原告シチズン時計であり、原告シチズン商事はシチズン時計からこれを購入して販売しているものであるが、《証拠略》によれば、原告ら商品の開発に関しては、原告シチズン商事が新規腕時計商品の企画を提案し、これに基づいて原告シチズン時計が腕時計の具体的な形態・仕様を創作していると認められ、原告ら両名が共同して原告ら商品の形態を開発したということができるから、原告らはいずれも不正競争防止法二条一項三号の不正競争行為に対して同法所定の救済を求める主体となり得るものである。
5 以上によれば、被告による被告商品の輸入販売は不正競争防止法二条一項三号の不正競争に該当し、これにより原告らは営業上の利益を侵害されているものと認められるから、原告らは被告に対し、対応する原告ら商品が最初に販売された日から起算して未だ三年を経過していないハ号商品ないしリ号商品については同法三条により輸入販売行為の差止め及びその廃棄を求めることができ、また、すべての被告商品について、損害が認められる場合には同法四条によりその賠償を求めることができる。
原告らは、右に加え、同法七条による信用回復の措置として謝罪広告の掲載をも求めるが、本件において被告商品の輸入販売により原告らの営業上の信用が害されたことを認めるに足りる証拠はないから、損害賠償に加えて、謝罪広告を掲載することまでもが必要であるとは、認められない。
二 争点2(意匠権侵害の成否)について
本件意匠とリ号商品の腕時計用側の意匠とを比較すると、別紙四「意匠公報」及び別紙一「被告商品目録」記載のとおり、両者の形状は同一ないし極めて類似しているということができるから、リ号商品を輸入し販売する行為は、本件意匠権を侵害するものであると認められる。
したがって、原告シチズン時計は被告に対し、意匠権侵害行為として、リ号商品の販売等の差止め、廃棄を求めることができ、また、損害が認められる場合には同法四条によりその賠償を求めることができる。
三 争点3(原告らの損害の額)について
1 原告らは、前記第二、二3(一)のとおり、被告の不正競争行為により被った損害として、(1)被告商品が輸入販売された数量に、原告ら商品の販売により原告らが得られる原告ら商品一本当たりの利益の額を乗じた金額、(2)宣伝広告費を含めた原告ら商品の開発のために投資した金額、(3)予備的に、被告が不正競争行為により得た利益に相当する金額の賠償を請求している。
原告シチズン時計は、前記第二、二3(二)のとおり、被告によるリ号商品の販売につき、右請求と選択的に、本件意匠権の侵害により被った損害として、右(1)の金額と同額の賠償を求めている。
2 そこで検討すると、不正競争ないし意匠権侵害による損害として主張する右(1)の金額について、原告らは、原告ら商品一本当たりの利益の額が六〇〇円ないし四〇〇〇円であると主張するが、右利益の額についての主張を裏付ける証拠はない。したがって、原告らの右(1)の主張は、その前提を欠くものであり、その余の点について判断するまでもなく、採用できない。
3 また、原告らは、右(2)の金額が被告の不正競争行為により原告らが被った損害であると主張し、その主張に沿う証拠として、原告らにおける腕時計一点当たりのデザイン費用は、平均で約六二万円であり、原告ら商品(三)及び同(五)については合計約二八六万円であること、原告ら商品の宣伝広告費が三億円を超えていること、原告ら商品(三)及び同(五)の販売数量が、平成八年一〇月から同九年九月までの期間に比べ、同年一〇月以降急激に減少していることを示す資料(甲一三ないし一九)を提出する。右(2)の金額については、本来デザイン費用、宣伝広告費は商品の販売収入により回収されるべく商品価格が設定されているはずであることに照らせば、被告の不正競争行為による原告ら商品の販売数量の減少による逸失利益の損害に加えて、これと別途に原告ら商品についてのデザイン費用、宣伝広告費を損害という原告らの主張は、主張自体失当として排斥すべきものである。また、仮にこの点をおくとしても、原告ら提出の右各証拠を総合しても原告らの主張する右(2)の金額が被告による不正競争行為と相当因果関係のある損害に当たると認めることはできないから、いずれにしても、右(2)の損害をいう原告らの主張は採用できない。
4 そうすると、原告らの被った損害については、右(3)の被告が被告商品の輸入販売により得た利益の額であると自認する二〇六万九六〇〇円(イ号商品ないしチ号商品につき一六八万九六〇〇円、リ号商品につき三八万円)であると認められ(不正競争防止法五条一項)、右認定の額を越える損害を原告らが被ったことを認めるに足りる証拠はない。
本件においては、原告ら商品はいずれも原告シチズン時計が製造して専ら原告シチズン商事に納入し、これを受けて原告シチズン商事において販売しているものであって、原告両会社は企業グループ内において原告ら商品につき製造と販売を分掌するものである。原告らは、そのような状況を前提として、本訴請求において、原告ら商品それぞれ一個当たりにつき各原告が取得すべきそれぞれの利益額を基礎として算出した金額を、各原告の逸失利益として請求しているものであり、右によれば、原告らは被告の不正競争により被った損害については、原告ら商品から得られる各原告の利益額に応じた割合でこれを請求しているものと解することができる。
そこで、原告らの損害の額と認められる右金額を、原告らがそれぞれ損害賠償として請求している金額の割合(イ号商品ないしチ号商品につき原告シチズン時計一に対し原告シチズン商事二の割合、リ号商品につき原告シチズン時計一に対し原告シチズン商事四の割合)で按分すると、原告らがそれぞれ賠償を求め得る金額は、原告シチズン時計が六三万九二〇〇円(イ号商品ないしチ号商品につき五六万三二〇〇円、リ号商品につき七万六〇〇〇円)、原告シチズン商事が一四三万〇四〇〇円(イ号商品ないしチ号商品につき一一二万六四〇〇円、リ号商品につき三〇万四〇〇〇円)であると認められる。
5 以上によれば、原告らの請求は、それぞれ右金額及びこれに対する不法行為の後である日(イ号商品ないしチ号商品に係る分につき平成一〇年一月一三日、リ号商品に係る分につき同年一〇月一〇日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
四 よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一一年四月一三日)
(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 大西勝滋)